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【日本経済分析④】日本経済を徹底解析する

第2弾と第3弾では、これまでの黒田日銀の政策について見てきました。

【日本経済分析②】日本人の給料が上がらないワケ ~逆ケインズ問題~

【日本経済分析③】マイナス金利のカラクリ

しかし、非常に多くの識者が、非常に多くの見解を示すので何が真実なのか分かりません。

また、日銀批判をする人もいますが、執筆者自身は全くそのようなことをするつもりはありません。

金融政策は非常に困難であり、そもそも金融についてあらかじめ予測し正確な判断を下せる人はいないと思っています。

多くのメディアではそれっぽい意見が飛び交っていますが、執筆者も含め「後知恵バイアス」になっています。

そこで今回は、今までの日銀の政策により集まったデータをもとに、理論では捉えられない金融現象を浮かび上がらせてみます。

波及経路の実証分析

では、本記事の本題である実証分析に入ります。

以下では、2013年4月以降の金融政策の波及経路について、実際のデータを用いて実証的に分析していき、理論では捉えられない日本経済の本質を明らかにしていきます。

また、大まかな分析の流れはVARモデルによる実証分析を行い、そこからインパルス反応関数の推定とGranger因果検定を行うことで経済変数の因果性・影響力を分析したものになっています。

専門性の高い内容になっているため「結論」だけ読んで頂くことをおすすめします。

分析方法及びデータ

《実装環境》

  • Python 3.7.3
  • Jupyter Notebook 6.0.0
  • stats models 0.10.0
  • pandas 0.24.2
  • numpy 1.16.4
  • matplotlib 3.1.0

上述の金融政策の流れを考慮して、2013年2月から2019年8月(全期間)と2016年2月から2019年8月(マイナス金利期間)を分析期間とし、金融政策の政策指標である短期金利(無担保コールレートO/N)、長期金利(10年国債利回り)、鉱工業生産指数、消費者物価指数(除く生鮮食品、エネルギー)、マネタリーベース、日経平均株価、名目実効為替レート、マネーサプライ(M2+CD)の月次データを使用します。

また、短期金利、マネタリーベース(季節調整済み)、名目実効為替レート、マネーサプライ(季節調整済み)を日本銀行から、鉱工業生産指数(季節調整済み)を経済産業省から、長期金利を財務省から、消費者物価指数は前年比とし総務省から、日経平均株価(月初終値)を日経プロフィルからデータを収集しました。

そして、マネタリーベース、日経平均株価、マネーサプライについては対数変換を行いました。

VAR分析に先立って各変数の単位根検定及びVAR分析を行う変数グループにおける共和分検定を行いました。

単位根検定はAugmented Dickey-Fuller検定を採用し、ラグの長さについてはAICに基づいて判断しました。

単位根検定の結果は、以下の表①の通りです。

各変数とも定常であるという帰無仮説が棄却され,1 階差分変数において定常性が確認されたことから、ここでは全変数を I(1)変数として分析を行いました。

(表①:単位根(ADF)検定の結果)

次に共和分検定としてJohansenの方法で行いました。

ラグ数については先行研究等を参考にして2期としました。

モデルのランクの決定についてはトレース検定の結果に基づき,最初に棄却されないランクで制約の強いものを採用しました。

共和分検定の結果は以下の表②の通りです。

全期間でランク5、マイナス金利期間でランク4の共和分関係の存在が5%有意水準で確認されました。

(表②:共和分検定(Johansen)の結果)

以上から変数間に共和分関係が認められるためVECM(Vector Error Correction Model)を採用することとします。

オーダリングは上記8変数で行いインパルス反応関数を推定するとともにGranger因果検定を行いました。

分析結果

各経済指標について以下の通りになっています。

また、分析期間については、QQEが始まった2013年4月から2019年8月までを「全期間」とし、マイナス金利期間が始まった2016年2月から2019年8月までを「マイナス金利期間」と呼びます。

VECMにおけるインパルス応答関数の結果は以下の通りです。

全期間の結果が図①、マイナス金利期間の結果が図②になっています。

また、各変数のショックに対する累積の反応を10期まで示しています(図①、②の点線は1標準偏差バンドを表す)。

短期金利から為替への波及

全期間において、短期金利の低下が為替に影響し、円安をもたらしていました。

短期金利から長期金利への波及

全期間・マイナス金利期間において、短期金利の低下が長期金利の低下をもたらしていました。

為替から物価への波及

マイナス金利期間において、為替レートから物価へ波及していることは有意な結果が得られました。

つまり、円安になると物価が上がるということが確認されました。

為替から株価

マイナス金利期間において、円安時に一時的な株価の上昇が確認されました。

マネタリーベースの拡大から株価への波及

マイナス金利期間において、マネタリーベース拡大が直接株価の上昇をもたらしていました。

この点については、想定されていた「株価押し上げ」を達成しています。

マネタリーベースの拡大からマネーサプライへの波及

全期間において、マネタリーベースの拡大はマネーサプライの低下をもたらしていました。

この点については、当初想定されていた流動性の拡大が銀行等を通じて「市中にお金が流れていく」という波及が不達になっています。

長期金利から為替への波及

全期間において、長期金利低下が円安をもたらしていました。

長期金利からマネーサプライへの波及

全期間・マイナス金利期間において、長期金利が上昇するとマネーサプライが減少するというシンプルな効果も検証されました。

株価から物価への波及

マイナス金利期間において、株価の上昇が物価の上昇をもたらしていました。

(図①:全期間のインパルス反応)

(図②:マイナス金利期間のインパルス反応)

また、Granger因果検定の結果は以下の通りです。

※***は有意水準1%、**は5%、*は10%でそれぞれ有意であることを表している。

(表8:全期間のGranger因果検定の結果)

※***は有意水準1%、**は5%、*は10%でそれぞれ有意であることを表している。

(表9:マイナス金利期間のGranger因果検定の結果)

結論:マイナス金利は想定通りのカラクリ

以上から、VECMのインパルス反応とGranger因果検定を見ると、短期金利の低下が長期金利の低下に繋がり、そこから円安に影響していることが確認されました。

また、長短金利の低下はマネーサプライを増加させる因果性も発見されました。

円安は物価と株価を上昇させ、後者はGranger因果性も検出されました。

他にも、マネタリーベースの拡大がマネーサプライを低下させるというインパルス応答関数と因果性が検出されました。

経済学者のクルーグマン氏が言うようにインフレ期待を醸成して実質金利を引き下げて消費を促進することについては、金利と物価の関係が有意ではないため上のデータ分析からは現実的ではないように思います。

また、単純に金利が下がれば消費が増えるのかという問題について、貯蓄好きな日本人にとっては当てはまらないように思います。

さらに、2019年10月の消費増税と合わせて考えるとデフレマインドに拍車がかかり、インフレ・ターゲティング達成はさらに遠のく可能性が高いことが推察されます。

まとめ:もはや「マネタリーベースの拡大」が問題

マイナス金利は第3弾の「マイナス金利のカラクリ」でご説明したような波及をしていました。

以下にまとめてみます。

したがって、マイナス金利には一定の効果が実証されたので続ける理由は存在しています。

ただし、デメリットとして銀行の収益悪化については十分に配慮しなければいけません。

また、マイナス金利以上にある問題が浮上しました。

それは、マネタリーベースの拡大がマネーサプライに繋がっていないことです。

これは、ポートフォリオリバランスとも言われますが、簡単に言うと「日銀の大量のETF買い入れによる、お金のバラマキが機能せず、株式市場のみ歪んでいる」ということです。

このことは、日銀も認識していると思いますが、投資家のみなさんは「作られた相場」に対して考えながら戦略を練らなければいけません。

さて、第5弾(最終)では、日本経済の構造的な問題を指摘し、今後日銀が取りうる可能性が高い政策や、日本株式市場のリスクについて考えていきます。


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