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【日本経済分析③】マイナス金利のカラクリ

第2弾では、QQEの効果は物価を一時的に押し上げた一方で、賃金の上昇を伴わないと意味がないことを解説しました。

【日本経済分析②】日本人の給料が上がらないワケ ~逆ケインズ問題~

また、日本人の給料(賃金)が上がらないという「逆ケインズ問題」の原因は「雇用の流動性低下」にあることも論文を参照して解説しました。

しかし、日銀の施策はその後も続きます。

2016年2月から現在に至るまで「マイナス金利」を導入しているのです。

そこで、今回はマイナス金利が経済にどんな効果を与えるのか、または与えたのかというカラクリ(仕組み)を解説していきます。

2016年2月、マイナス金利導入

2013年から始まるQQEに加え、2014年のマネタリーベースの拡大の結果、新たな問題が2つ顕在化しました。

1つ目は、マネタリーベースの拡大だけでは一時的なインフレを起こせるが実質的な賃金が低下して「インフレ率の維持を実現できないこと(逆ケインズ問題)」。

2つ目は、2014年10月から1カ月で10兆円の長期国債を買い入れたため、「国債買い入れを何年も続けられないこと」です。

この問題に対処すべく2016年2月からマイナス金利が導入されました。

マイナス金利のカラクリ

マイナス金利の意図は、銀行の貸出金利を低下させ、企業の設備投資を増加させ、実体経済に影響を与えようとするものでした。

そして、マイナス金利が導入されて約半年後、2016年7月までにはマイナス金利の意図が民間銀行に理解されるようになり、長期金利が低下し住宅ローンや設備投資の増加に大きく貢献しました。

ちなみに、マイナス金利のカラクリ(仕組み)をまとめると以下のようになります。

また、マイナス金利による長期金利の低下から、銀行の主要収益である利鞘は縮小し銀行株安に陥ったことや、生損保や年金基金の運用に支障をきたす事態が生じたため、2016年9月、長期金利の下げ過ぎ是正を意図してイールドカーブコントロール(YCC)を実施しました。

YCCの意図は長期金利をほぼ0%近辺(上下0.1%)に維持することでした。

一連のマイナス金利政策は、当初金利低下から個人消費・設備投資を刺激する意図があったのですが、銀行の預金金利引き下げ等の経済不安からむしろ人々の支出・投資は抑制され、かつ銀行の収益悪化と相まって経済に対するリスクプレミアム(不安)が上昇し 、株価・為替等の資産効果も減殺されているのではないかという見方も出ています。

つまり、簡単に説明すると、マイナス金利は住宅ローンや設備投資を増加させましたが、同時に消費を抑制させてしまったのではないかということです。

マイナス金利の具体的な仕組みと短期金利との関係

マイナス金利の仕組みは簡単に説明すると「民間銀行が日本銀行に預けているお金(の約10%)にマイナスの金利を課す」というものです(つまり、民間銀行は日銀にお金を預けると損するということです)。

細かく説明すると、マイナス金利とは日銀当座預金(民間銀行が日本銀行に預けているお金)を「政策金利残高・マクロ加算残高・基礎残高」の3つに分け(3層構造)、それぞれ金利を-0.1%、0%、0.1%とし、つまり政策金利残高についてのみマイナス金利が適応されているということなのです。

また、日銀当座預金の残高は年々増加していくのですが、マイナス金利適応部分(政策金利残高)は10~30兆円以内(日銀当座預金の10%未満)に抑えられるとのことで銀行への直接的なダメージは概ね回避されていました。

以下でそのことを確認してみます。

(表7:日本銀行より執筆者作成)

表7からわかる通り、マイナス金利適応残高(政策金利残高)は補完当座預金適応先の残高に占める割合がマイナス金利政策導入以降10%以内に抑えられていることが分かります。

ただ、マイナス金利は短期金利(コールレート)を操作しているわけではないので長期金利への波及は本当に実現するのかという問題があります。

その点について、マイナス金利適応部分の比率が高い金融機関は-0.1%の金利を回避するためにコール市場で運用し、マイナス金利適応部分の比率が小さい金融機関がその資金を吸収することでコールレートが-0.1%まで低下する仕組みになっているのです。

つまり、マイナス金利は長期金利への波及が想定されているということです。

実際のマイナス金利の影響

実際のマイナス金利の効果は主に2つありました。

1つ目は長期金利の低下、2つ目は銀行収益悪化です。

以下でこの2つを説明します。

長期金利の低下

上でご説明した通りマイナス金利の導入により、短期金利(コールレート)は-0.1%まで低下し、その結果、長期金利低下が起きました。

(表8:コールレートは日本銀行より、長期金利は財務省より執筆者作成)

表8からわかる通り、2016年初め(赤印)から短期金利(コールレート)が急激に低下し、それに追随して長期金利も低下していることが確認できます。

銀行収益の悪化

銀行の収益構造は単純化すると、バランスシートの資産サイドに融資(ローン)、負債サイドに融資と同額の預金が設定され、それぞれの金利差(利ザヤ)を得るというものです。

当然、「融資の金利>預金の金利」になるように銀行は金利を設定するのですが、銀行が恣意的に決められるのは「預金の金利」だけなのです。

現在ではメガバンクで0.001%というほぼゼロの預金金利が設定されていますが、これ以上金利が低下したらどうでしょうか?

私たちは、銀行にお金を預けないかもしれません。

そこで銀行は収益を出すために預金金利を下げていたのですが、今となってはこれ以上預金金利を下げることができず、同時に融資の金利も低下してしまっているのです。

ちなみに融資の金利は長期金利に連動するようになっているため、長期金利までほぼゼロになっている今では、銀行の収益構造は機能不全に陥っているのです。

まとめ:マイナス金利はデメリットが大きかった

このようにマイナス金利のメリットは設備投資・住宅投資を増加させる点にありました。

ちなみに理論的には消費を増加させることも考えられますが、上述したように銀行が預金金利を引き下げるなどの行動が私たちの経済への不安を煽り(=リスクプレミアムを高め)、消費を抑制したとの見解が専門家の間では言われています。

マイナス金利のデメリットは銀行ビジネスへの悪影響です。

この問題は今日でもニュースで取り上げられ、某メガバンクの「送金手数料引き上げ」や、某フィンテック企業の「第4メガバンク構想」の背景にはマイナス金利が関係しています。

完全な後知恵ですがマイナス金利はメリットに比べデメリットが大きかったようです。

では、マイナス金利をやめるべきでしょうか?

もし、やめるのであれば、「再デフレ」の懸念があるのではないでしょうか?

様々な意見がありますが、この点が冒頭でも言った「政策の行き詰り」です。

さて、第4弾ではこれまでの政策が本当に(統計的に)効果があったのかを検証していきます。


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