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DBS銀行が見据える金融の未来

現在、世界一のデジタルバンクといわれる「DBS銀行」は、日本での認知度こそ低いものの世界中の金融業者から注目を集めています。

デジタルトランスフォーメーションのトップランナーとして、何が革新的なのか、今回はDBS銀行がもたらす社会変革について考察していきます。

DBS銀行とは何か

DBS銀行はシンガポールを拠点に活動しており、その名前が世界中に知れ渡ったのは金融専門情報誌の「ユーロマネー」による極めて高い評価が付いたことからです。

その他にも「グローバル・ファイナンス」誌が選ぶ「World′s Best Bank 2018」においてもベストバンク賞を受賞しています。

このDBSとは「The Development Bank of Singapore」の頭文字をとった略称ですが、現在は「Degital Bank of Singapore」の意味合いを濃くしています。

では、DBS銀行がなぜ注目されているのか、その最大の理由としては「デジタル化が収益性にどのような影響を与えるのかを定量として測定できるようにしたこと」と言われています。

DBS銀行によると、デジタル取引を行う顧客は、店舗を訪れる顧客と比べて2倍もの売り上げをもたらすこと、より多くのローンと預金を保有することが分かりました。

さらに、既存の顧客獲得よりもデジタル取引の顧客を獲得する方が費用が57%も低く、既存の顧客よりも16倍も多くの取引を自発的に行うことが分かったのです。

こうした情報開示によってDBS銀行は急激に注目される存在となったのです。

DBS銀行の始まりは1968年と歴史があり、シンガポールの政府系銀行からスタートしました。

現在では東南アジアを中心に18カ国、280以上の地域に拠点を構えるまでに成長しています。

時価総額は約642億シンガポールドル(約5兆2770億円 2019年3月)まで大きくなっています。

具体的な業務としては、リテールバンキング、資産運用管理やプライベートバンキング、中小企業などのコーポレートバンキング、保険業務など多岐にわたります。

名実ともに東南アジアで最大規模の銀行なのです。

DBS銀行が掲げる3つの経営指標

DBS銀行が現在のようにテクノロジー企業をベンチマークしたのは2009年からです。

そのきっかけは同年に入社したグプタCEOと前年に入社したデビッド・グレッドヒルCIO、この2人の尽力が大きいと言われています。

そしてデジタルトランスフォーメーションについて、3つの印象的な経営指標を以下のように掲げました。

  • 「会社の芯までデジタルに」
  • 「自らをカスタマージャーニーへ組み入れる」
  • 「従業員2万2000人をスタートアップに変革する」

まず「会社の芯までデジタルに」では、オンラインサービスやモバイルサービスのデジタル化だけでなく、ハードウェアやインフラ、それから経営者や従業員のマインドセットや企業文化まで、あらゆることを徹底的に見直すことを意味しています。

次に「自らをカスタマージャーニーへ組み入れる」では、銀行としての存在意義を問い直すなかで、次世代金融産業においてのビジョンを示そうとしています。

具体的には、預金・貸出・為替といったトランザクションジャーニーから、顧客のライフスタイルやニーズに寄り添うカスタマージャーニーへと転換しています。

またデジタル化によって出来る限りシームレスで目に見えない存在になることをめざしています。

最後の「従業員2万2000人をスタートアップに変革する」では、会社の全ての人材のマインドセットのための社内ハッカソンやスタートアップへの出資や買収を進めています。

こうした取り組みを続けていくなかで、2018年5月にDBS銀行は「銀行を意識することなく、生活を楽しもう」というミッションを新たに掲げ、従来の「アジアとともに生きる、アジアとともに躍動する」を進化させました。

こうした取り組みからも従来の銀行業務の領域を超えて行こうとするDBS銀行の決意を知ることができます。

都市国家シンガポールの宿命

DBS銀行がデジタルトランスフォーメーションに踏みきった背景には、シンガポールという国が持つ強烈な危機感を学ぶ必要があります。

シンガポールは東京23区と同程度の規模の都市国家です。人口はわずか560万人に過ぎず、天然資源も乏しいため国内市場には期待ができないといった背景があること理解する必要があります。

そのため、東南アジアの真ん中という地理的条件を活かした貿易立国として、海外交易の拠点となることで躍進していきました。

それと同時に海外から産業・企業・テクノロジーを取り込んできた歴史があります。

現在では1人当たりのGDPは約6万米ドルと日本や米国を追い抜いています。

またDBS銀行の主戦場である中国にはアリババやテンセントといった強力な金融ディスラプターが存在しており、常に強い危機感を持っていることも変革を促す要因でしょう。

またシンガポールのリー・シェンロン首相もテクノロジーの進化に伴う「破壊」を推奨しており、国家として後押しをしているのも特長です。

事実、世界に先駆けて自動運転車が走行する都市を整備し、交通政策や規制の修正を行ったのもシンガポールです。

まさに日本とは対照的な政策に舵を切っているとも言えるのではないでしょうか。

台頭する中国や隣国に負けないためにも、どこよりも早いスピードで変革していくことこそ、シンガポールが唯一生き残る戦略なのです。

そういった土壌の上にDBS銀行が誕生したのです。

DBS銀行のアジェンダ

DBS銀行は事業セグメント毎に自らを「破壊」するアジェンダを設定しました。

売上高の44%を占めるシンガポール・香港のリテールと中小企業取引に対しては、「ディスラプターに先んじて自らを破壊する」。

売上高の4%を占める成長市場と位置付けるインド・インドネシアのリテールと中小企業取引に対しては「既存銀行を破壊する」。

残りの52%を占める中国・台湾、あるいはプライベートバンキングやコーポレートバンキングなどの事業に対しては「収益性の確保を目指しデジタル化する」としました。

以上のアジェンダを踏まえて、DBS銀行はデジタルトランスフォーメーションの具体的な4つの指針が存在します。

「クラウドネイティブになる」

グレッドヒルCEOは「単なるリップスティックでなく、システムの芯までクラウド化する」と言います。

なぜなら、クラウドネイティブ化によるコスト削減効果は大きく、人件費の8割以上を削減しています。

2018年度中には全ITシステムの50%をクラウド化することを目標設定し、2019年度前半にはクラウド化によってデータセンター設備を75%削減するとしているのです。

「APIによってエコシステムのパフォーマンスを上げる」

DBS銀行のデジタルトランスフォーメーションとは「APIによるエコシステムのパフォーマンスの向上」でもあります。

このオープンAPIはカスタマーエクスペリエンス志向やベストな顧客サービスを提供するために構築するエコシステムです。

現在、会計ソフト「Xero」やERソフト「Tally」との連携、200以上のAPIを通じた60社以上のパートナーとのエコシステムの構築を実現しています。

「顧客第一主義を徹底する」

顧客第一主義を徹底するために、顧客との接点におけるデジタル化を進めています。

例えば、口座開設をオンライン上で完結するだけに留まらず、自動車・不動産・電気の売買・契約・支払いをワンストップで仲介・提供するマーケットプレースやモバイル決済サービス、スマホアプリ、オフラインバンキングとオンラインバンキングを統合させた店舗「Click and Mortor」に取り組み、新たなカスタマーエクスペリエンスの創出に動いています。

またプライベートバンキング部門では、オンライン資産運用管理プラットフォームやオンライン財務・資金管理シミュレーションプラットフォーム、コーポレート部門では独自のオンラインコーポレート・バンキングプラットフォームや中小企業向け事業のアドバイスを行うネットワーキングコミュニティーなどのサービスがあります。

こうした背景には、DBS銀行が最重要拠点とするシンガポールと香港では実店舗の出店余地が少なく、特に中国では出資規制などの制約があります。

そのためデジタル銀行にシフトチェンジすることで物理的な商圏そのものの制約を越えようとしているのです。

「人とスキルに投資する」

これは従業員のマインドセットやスキル強化への投資を惜しまないという意味です。

その一環として学びのスペース「DBSアカデミー」の設立や、各種ハッカソンなど、きめ細かな学習機会を設けています。

こうした姿勢は金融機関というよりもテクノロジー企業のような印象を与えます。

このようにDBS銀行のデジタルトランスフォーメーションとは、バックエンド、フロントエンド、人や企業の三位一体の改革であることがわかります。

「GANDALF」と同等の規模になることを目標に掲げている

DBS銀行がテクノロジー企業のような変革を起こす要因として、ベンチマークしている企業が同業他社であり、そのなかでも「GANDALF」に注目し続けています。

これはグーグル、アマゾン、ネットフリックス、アップル、リンクトイン、フェイスブックなどのメガテック企業の頭文字を並べた総称です。

ここにDBS銀行は肩を並べる存在になることを目指しているのです。

ビッグデータとAIの活用によって「察するサービス」を提供する銀行は、将来の銀行の魅力的な在り方の1つとなるはずです。

おわりに DBS銀行は金融のゲームチェンジャーとなるのか

DBS銀行のオープンAPIは銀行サービスを目に見えないものにするには絶好のツールです。

これはカスタマーエクスペリエンスを格段に向上させました。

従来の銀行の不便なイメージ、ATM前に並ぶ長蛇の列、こうした当たり前を壊していくことで、新たな当たり前の構築を目指し続けています。

こうした姿勢こそDBS銀行がテクノロジー企業へと変貌を遂げている証であり、これからの金融業界の新たな在り方ではないでしょうか。

シンガポールという国土や地理的条件が持つ危機感がバックグラウンドとなり、今後もDBS銀行を成長させ、社運を賭けて推し進めてきたデジタルトランスフォーメーションが米国や日本の金融機関にどのような影響を与えていくのか、今後も目が話せない展開がしばらく続くはずです。


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記事は、一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。

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