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米国のインフレとインフレ・ヘッジに向いている米国株セクター【第2回】

ETF
出典:Getty Images

第1回に続いて第2回目となる今回の記事では、インフレ・ヘッジ向きの株式セクターとそうでないセクター、さらにインフレ・ヘッジ向きのETFの例についてお伝えしていきます。

米国のインフレとインフレ・ヘッジに向いている米国株セクター【第1回】

インフレ・ヘッジに向いている米国株セクターとは? 

インフレが株式パフォーマンスに与える影響は、米国株式の各セクター間で異なっており、全ての株式が一様にパフォーマンスを低下させるわけではありません。

別の言い方をすれば、インフレ・ヘッジの手段として有効なセクターとそうでないセクターが存在することになります。

インフレ・ヘッジとは、物価上昇に対して運用資産のパフォーマンスが低下するリスクを抑制してくれる運用先のことです。

以下の表は、1973年から2020年までの期間で、高インフレ環境下における米国株式セクター間でのパフォーマンスの優劣を表しています。

(出典:シュローダー Schroders)

表の横軸(X軸)は、1973年以降、高インフレ・高インフレの環境下で、株式リターンがインフレ率を上回った12ヶ月間の割合を示しています。

縦軸(Y軸)は、これらの期間に達成された実質的な(インフレ調整後の)リターンを表し、高インフレ環境下で平均してどれだけインフレを上回ったかを示しています。

この表からは、様々な米国株式セクターのうち、高インフレ環境においてどのセクターが最も株式パフォーマンスとヘッジの有効性が高いのかが見て取れます。

インフレ・ヘッジ効果の高い米国株式セクター

インフレ局面で高いヘッジ効果とパフォーマンスが優れている傾向にある米国株式セクターをその効果が高い順にご紹介していきます。

エネルギー・セクター

米国株式セクターの中で最もインフレ・ヘッジ効果とパフォーマンスが優れているのは、石油やガス関連の企業などを含むエネルギー・セクターです。

このセクターの企業は71%の確率でインフレ率を上回り、平均で年率9.0%の実質リターンを実現しました。

エネルギー関連株の収益は、インフレ指数の重要な構成要素であるエネルギー価格に連動します。

とりわけ原油や天然ガスといった生産者側に近い商品は、インフレによって上昇する生産コストをすぐに販売価格に転嫁しやすいセクターといえます。

そのため、インフレ率上昇の局面において、エネルギー関連セクターの株のパフォーマンスが必然的に向上する傾向があります。

エクイティ・リート

エネルギー・セクターの次に高いインフレ・ヘッジ効果とパフォーマンスがあるのが、不動産投資信託(エクイティ・リート)です。

インフレ対策ということでは、直接不動産を保有し、その賃料収入をファンドの収益源とするエクイティ・リートと不動産運営者への貸付金を債券化して貸付債権や住宅担保債券を取得するモーゲージ・リートでは明暗が分かれます。

上記の表ではリートはインフレ率を67%上回り、平均実質リターンが4.7%に達しています。

不動産資産を保有しているエクイティ・リートがこのようなパフォーマンスとなりやすい理由は、高インフレ環境下では不動産価格の値上り分や賃料の緩やかな上昇が見込まれるためです。

足元では、新型コロナの影響によってEコマースに直結する物流施設が不足するほどの稼働率を誇る産業施設リートやリモートワークで旺盛な貸倉庫リートのパフォーマンスが大幅に伸びています。

一方でホテル・レジャー・リート、商業・小売リート、住居リートなどは未だに厳しい状態が続いています。

金融セクター

金融セクターも、キャッシュフローが短期に集中する傾向があるため、比較的良好なパフォーマンスを示す傾向があります。

ただし、あまりにインフレ率が高くなる局面では、銀行を中心に将来返済される既存のローンの現在価値を低下させるため、パフォーマンスを抑制させる可能性もあります。

金・金鉱株セクター

金・金鉱株セクターは同じコモディティであるエネルギー・セクター同様にインフレに強いセクターの代表格です。

金やプラチナといった実体のある実物資産を扱うセクターであるため、インフレ局面に強いセクターとされています。

表からはインフレ率を上回る可能性は47%にすぎませんが、8.0%という高い平均実質リターンを記録しています。

実質リターンだけで見ると、エネルギー・セクターに迫る高さを示しています。

金や金鉱業も原油などと同様に価格転嫁しやすいセクターであることが、高インフレ下において好パフォーマンスを出せる理由にもなっています。

インフレ・ヘッジ効果の低い米国株式セクター

一方でインフレ・ヘッジ効果が薄い米国株式セクターは、モーゲージ・リートとグロース株(表ではITセクター)、公益事業セクターです。

債券もインフレが進む局面では、利子の購買力を低下させるとともに利上げ政策などにより、金利上昇と債券価格の下落を招きます。

しかし、株式セクターに絞っているために割愛しています。

モーゲージ・リート

住宅ローンを投資対象とするモーゲージ・リートは、最もパフォーマンスの低いセクターの一つです。

インフレ対策ということでは、現物の不動産を貸し付けるエクイティ・リートに対しては不利になります。

債券と同じように、インフレが進むとクーポン価値が下がり、それを補うために利回りが上がり、パフォーマンスが下がる傾向があるからです。

グロース株

IT関連企業を中心にグロース株も高インフレ局面では、ヘッジ効果が低いと考えられます。

その理由はキャッシュフローの大部分が遠い将来にもたらされると予想され、インフレが進むと現在価値が大幅に下がるからです。

一方でインフレが将来の利益を引き上げ、インフレ分が将来の利益に含まれてイーブンになるため、グロース株がインフレに弱いことにはならないという議論もあります。

しかし、現在の株価のバリエーションが将来の利益に基づいて決定されるとやはり株価の割高感が増し、パフォーマンスに影響を与える可能性があります。

とりわけ、高インフレ下で利上げ政策が実施され、金利上昇となると、株価の割高感はさらに増すことになります。

公益事業セクター

電力会社やガス会社といった公益事業セクターもインフレ・ヘッジ効果が低いとされるセクターです。

その理由が国からの規制等により、タイムリーかつ完全な価格転嫁が難しいためです。

電力やガスといった公益性の高い事業には、国などから消費者向けの価格改定についても様々な規制を受けています。

もし、エネルギー価格が高騰しても、コスト上昇分をある程度の時間をかけて徐々に電力やガスの販売価格に転嫁せざるをえず、株価パフォーマンスにも影響を与えます。

インフレ率の上昇、さらに高インフレ局面が継続すると株価は様々な反応を見せます。

その中でインフレの影響を上手く吸収してヘッジ対策となったり、逆に恩恵が受けられるセクターとそうでないセクターに分かれてくることが、よくおわかりいただけたのではないでしょうか。

インフレヘッジ向きのセクターでチェックしておきたい米国ETF

インフレ対策としてはエネルギー・セクターやエクイティ・リートが有効であるとお伝えしましたが、そのようなセクターでチェックしておきたいETFをご紹介していきます。

iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト

ファクトシート(2021年6月29日時点)

ファンド名 iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト(iShares S&P GSCI Commodity-Indexed Trust: GSG)
年初来上昇率 29.27%
直近1年上昇率 56.50%
運用資産残高(AUM) 13億6,840万米ドル
経費率 0.75%
年間配当利回り 0.00%
投資対象資産 商品
投資対象セクター 商品(コモディティ)
投資対象国・地域 投資対象国・地域
ベンチマーク S&P GSCI Total Return Index
上場市場 米国 NYSEアーカ
ファンド運用開始日 2006年7月10日
運用会社 ブラックロック

ファンド主要構成ご参考

主要エクスポージャー(先物のみ) 保有比率 先物市場
WTI原油 15.7% NYMEX
北海ブレント原油 12.2% ICE-EU
8.6% NYMEX
トウモロコシ 6.8% ECBOT
6.1% LME
シカゴ小麦 5.0% ECBOT
大豆 5.0% ECBOT
アルミニウム 4.8% LME
生牛 4.8% GLOBEX
ガスオイル 4.1% ICE-EU
天然ガス 3.7% NYMEX
RBOBガソリン 3.4% NYMEX
ヒーティング・オイル(灯油) 3.0% NYMEX
豚赤身肉 2.9% GLOBEX
カンザスシティ小麦 2.2% ECBOT
粗糖 2.1% ICE-US
飼育牛 1.9% GLOBEX
綿花 1.7% ICE-US
亜鉛 1.4% LME
ニッケル 1.3% LME
コーヒー 1.1% ICE-US
0.9% LME
0.7% NYMEX
ココア 0.6% ICE-US

※2021年4月30日時点のデータかつ先物エクスポージャーのみ。運用パフォーマンスのデータ取得基準日2021年6月29日とはデータ取得日が異なりますので、ご注意ください

(上記データ出典:ブラックロック、ブルームバーグ、モーニングスター、etfdb.comおよびヤフーファイナンスより筆者作成)

新型コロナの影響がワクチン接種などを通じて納まれば、反動で米国をはじめ世界中で消費活動が活発になり、世界経済を押し上げるだろうという「ペントアップ・ディマンド」が期待されています。

そのような景気回復を通じて最も恩恵を受けるセクターの一つが、コモディティ・セクター、中でもエネルギー・セクターになります。

iシェアーズ S&P GSCI コモディティ・インデックス・トラスト(以下、GSG)は、GSGは、S&P GSCI Total Return Indexをベンチマークとするブラックロックのパッシブ運用型コモディティETFです。

米国コモディティETFには、インベスコのDBCやPDBCもありますが、GSGの保有資産銘柄数は24銘柄と、14銘柄のDBCやPDBCよりもより広く分散投資されているファンドになります。

とりわけGSGの場合、エネルギーや貴金属に加え、大豆や小麦といった農産物や肉牛などの畜産物にも運用先が広く分散されています。

経費率は0.75%で、0.88%のDBCより低く、0.68%のPDBCよりも若干高いレベルです。

同ファンドは、マネックス証券や楽天証券といった大手ネット証券での取り扱いがあるため、個人投資家には購入しやすいETFになります。

バンガード不動産ETF

ファクトシート(2021年6月29日時点)

ファンド名 バンガード不動産ETF(Vanguard Real Estate ETF: VNQ)
年初来の上昇率 22.76%
直近1年の上昇率 37.47%
純資産総額 749億2,000万米ドル
経費率 0.12%
年間配当利回り 2.10%
投資対象セクター 不動産
ベンチマーク MSCI US Investable Market Real Estate 25/50 Index
上場市場 米国 NYSE アーカ
ファンド運用開始日 2004年9月23日
運用会社 バンガード

(データ出典:ブルームバーグ、モーニングスターおよびヤフーファイナンスより筆者作成)

資産上位10銘柄の構成(全資産の44.84%、2021年6月29日時点)

保有資産構成 ティッカー 保有比率
Vanguard Real Estate II Index VRTPX 11.71%
American Tower Corp AMT 6.99%
Prologis Inc PLD 5.37%
Crown Castle International Corp CCI 4.97%
Equinix Inc EQIX 4.03%
Public Storage PSA 2.74%
Digital Realty Trust Inc DLR 2.57%
Simon Property Group Inc SPG 2.53%
SBA Communications Corp SBAC 2.01%
Welltower Inc WELL 1.92%

(上記データ出典:およびヤフーファイナンスより筆者作成)

米国不動産リートは、他国のリート同様に2020年中は新型コロナの影響から冴えない状況が続きました。

また、不動産リートは景気敏感セクターでもあることから、市場がリスクオフになるとあっという間に売られやすいセクターです。

2021年6月15、16日に発表のFRB(米連邦準備制度理事会)のFOMCから、米政策金利の引き上げ時期の前倒し観測が出ると一斉に米国リートに売りが入りました。

バンガード不動産ETF(NYSEMKT:VNQ)は、MSCI US Investable Market Real Estate 25/50 Indexという指数に連動するETFです。

VNQはブラックロックのiシェアーズ米国不動産 ETF (以下、IYR)と並んで、米国リートETFを代表するファンドです。

バンガードの商品らしく、IVRの0.42%に対して、0.12%と低い経費率が特徴となっているファンドになります。

ただし、主要な保有資産の上位を見ると、両者は似通っています。

そのため、直近のファンド伸び率も年配当利回りも似たようなパフォーマンスです。

ファンド全体で179銘柄を保有していますが、上位10銘柄で全体の約44%を占めています。

しかし、そのような状況にあっても、VNQとIVRはともに好パフォーマンスを維持したと言えそうです。

その理由が上位保有銘柄のほとんどがコロナの影響で需要が大幅に伸びたセクターに分散投資されていたことです。

コロナの影響で伸びたのは、物流関連施設を主とする「産業施設リート」やWFH(Work From Home、リモートワーク・在宅勤務)増加に伴い、不用品の整理目的などで個人の需要が大幅に伸びた「貸倉庫リート」です。

2021年1-3月期の決算では、産業施設リートのFFO成長率(調整済)が前年同期比プラス12.8%を記録する好決算となっています。

物流施設への旺盛な需要は、立地不足を招くほどで、賃貸料も上昇するなどの追い風が吹き続けています。

反対に現在もリート全体の足を引っ張り、深刻なダメージに陥っているホテル・レジャー・リートや商業・小売リート、住居リートの比重はとても低く、しっかりと選別されたポートフォリオになっています。

例えば、保有上位銘柄を見ると、保有率が一番高い「Vanguard Real Estate II Index(VRTPX)」の内訳はそれ以降の保有率となっている「American Tower Corp(AMT)」、「Prologis Inc(PLD)」、「Crown Castle International Corp(CCI)」の保有率が最上位に来ています。

それらの企業は、ビル屋上の携帯基地局、データセンター、貸倉庫、物流施設のいずれかとなっています。

どれもコロナの影響が軽微だったり、前述のようにパフォーマンスを大幅に伸ばした不動産セクターです。

尚、同ETFの日本国内での取り扱いは、サクソバンク証券のみとなっています。

免責事項と開示事項 記事の作者、モントキアラは、記事内で言及されている銘柄を保有してはいません。記事は、一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスではありません。

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