「ポイント制度」が企業業績に与える影響を知る

日本で暮らしていれば、多くの人がお世話になっていると思われる「ポイント制度」。
家電量販店、スーパー、コンビニエンスストア、ホームセンター、書店、カフェやファストフードなど、今や店舗に入れば「ポイントカードはお持ちですか?」とよく尋ねられます。
近年はそのポイントを効率よく得て、生活費の削減を実現している方もいらっしゃるようですし、そのような生活スタイルをお勧めする方もいらっしゃるようです。
この記事では「ポイント制度」を反対の角度から眺めて、もらう方にとっては都合がいいこともあるポイント制度が、発行する側にとってどのようなものなのかを上場企業を例に挙げて考察します。
企業会計におけるポイントの扱いは「会計基準」によって異なります。
「会計基準」をひとことでいえば、決算を行うためのルールです。
日本の上場企業の場合「日本基準」、「米国会計基準」、「国際会計基準(IFRS)」のどれかを採用しているケースがほとんどでしょう。
決算短信にはどの基準に基づいて決算を行ったかが載ります。
例えば下記に掲載したセブン&アイHD(3382)は「日本基準」にもとづいています。
出所:セブン&アイHD 2021年2月期第3四半期決算短信より
「ポイント制度」を実施している企業の業種はサービス業や小売業が多いのですが、それらの企業の中に「米国会計基準」を採用している企業は筆者が知る限りほとんどないので、この記事では「日本基準」と「IFRS」を対象とします。
「ポイント」は多くの場合、「ポイント発行」→ある程度の時間の経過→「ポイント使用」という時系列になります。
「日本基準」では「使われそうなポイント分」を「引当金」という項目(たいていの場合流動負債内)で計上します。
筆者の推測ですが、発行されたポイントに有効期限があることが多いのは、この「引当金」を合理的に見積もるために必要なのではないかと考えています。
有効期限を設けることによって、使われる時期をある程度特定することが可能になるため、より合理的な引当金額を想定することが可能になるのではないかということです。
前述したセブン&アイHD(3382)の場合、顧客に発行したポイントは貸借対照表の流動負債に「販売促進引当金」という項目で約235億円が計上されています。
1年以内に使われるポイントが235億円ぐらいありそうだと企業側が見込んでいてあらかじめ引き当てているのです。
出所:セブン&アイHD 2021年2月期第3四半期決算短信より
計上された235億円の規模を営業収益(売上高)に照らし合わせることで把握しましょう。
引用した決算短信によれば、セブン&アイHD(3382)の今期の予想営業収益は約5兆7,000億円です。
営業収益に占める販売促進引当金の割合は約0.4%です。
ただ、1社だけの数字では影響が大きいのか小さいのかわからないでしょうから、別の企業と比較してみましょう。
ヤマダHDは「ポイント引当金」という項目で貸借対照表に計上しています。
出所:ヤマダHD 2021年3月期第2四半期決算短信より
第2四半期時点でのポイント引当金は約146億円です。
ヤマダHDの通期予想営業収益は約1兆7,000億円ですので、セブン&アイHDと同様にポイント引当金が営業収益に占める割合を算出すると約0.8%です。
ポイント付与率がセブン&アイHDとヤマダHDでは同じではないでしょうし、販売されているものの単価も異なりますから、単純比較してはいけないと思いますが、ヤマダHDの方がポイントの営業収益に対する影響が大きいように見えます。
一方、「IFRS」の場合は結論から申し上げると「日本基準」のような引当金での処理は行いません。
「IFRS」を採用している楽天(4755)を例に考察します。
セブン&アイHDやヤマダHDと違い、楽天の貸借対照表には「ポイント引当金」のようなものがありません。
そのポイント処理については有価証券報告書に記載があります。
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」というルールにもとづき、顧客に支払われる対価に該当するポイントは、付与時に売上収益から控除しており、結果として前期の本決算においては売上収益が約917億円減少しているとのことです。
ちなみにIFRSの「売上収益」は日本基準の「売上高」に相当するものです。
出所:楽天 2019年12月期有価証券報告書より
同時期の楽天の売上収益は約1兆2,639億円ですので、売上収益に占める割合は約7.2%です。
詳細は割愛しますが「日本基準」と「IFRS」では売上高認識のルールが同じではないため、全く同じ土俵での比較にはなりませんが、対売上という視点でいえば、ヤマダHDの9倍ぐらいのインパクトがあることになりそうです。
このように「IFRS」は直接売上収益から控除される故、損益計算書にも貸借対照表にも値が載らないので、有価証券報告書を丁寧によく読まないとわからないという特徴があります。
ちなみに、同時期の楽天は約319億円の最終赤字決算で終わっています。
仮にポイントを一切付与しなかったらどうだったのか考えてみましょう。
ポイントが無ければショッピング等の楽天のサービスを利用しないというユーザーが少なくないかもしれないと考慮すると、これも単純に判断はできませんが、917億円の売上収益を犠牲にして最終赤字にする合理性については、個人的に疑問を感じます。
昨年11月に楽天ペイが、今月楽天ゴールドカードがポイント付与率を引き下げる公表をして、その都度楽天のポイント重視の生活をなさっている方々の間で話題になっているようですが、付与する側の立場からポイント制度を考察すると、違う風景が見えてくることに気づいていただけたら幸いです。
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