東証一部指定要件変更がもたらす投資家スタンスの変化

2020年11月1日から東証一部指定、一部への市場変更要件の一部が変わりました。
他の市場から東証一部所属銘柄になることを「東証一部昇格」と呼ぶ方が多いようですが、厳密には東証二部から一部所属になることを「一部指定」、「マザーズ」や「JASDAQ」に上場している会社が一部、二部所属になること、またはその逆を「市場変更」といいます。
参考:取引所グループ
投資家が所属市場の変化を意識する理由はいくつかありますが、こと「一部指定」に関していえば、一部指定を受けた銘柄がTOPIXの算出対象に加わることで、TOPIXに連動した運用をされている資金(以下:TOPIX連動資金)が、当該銘柄を買うという需要に伴う株価上昇を求めていることが多いように思います。
この価格変動については後述します。
さて、変更前と変更後の「一部指定要件」の主なものを比較してみます。
変更前 | 変更後 | |
株主数 | 2,200人以上 | 800人以上 |
流通株式数 | 20,000単位以上 | 20,000単位以上 |
流通株式時価総額 | 20億円以上 | 100億円以上 |
流通株式比率 | 35%以上 | 35%以上 |
時価総額 | 40億円以上 | 250億円以上 |
純資産の額 | 連結純資産の額が10億円以上(かつ単体純資産の額が負でないこと) | 連結純資産の額が50億円以上(かつ単体純資産の額が負でないこと) |
利益の額または時価総額 | 次のaまたはbのいずれかに適合すること
a.最近2年間の経常利益の合計5億円以上 b.時価総額が500億円以上(最近1年間における売上高が100億円未満である場合を除く) |
次のaまたはbのいずれかに適合すること
a.最近2年間の経常利益の合計25億円以上 b.最近1年間における売上高が100億円かつ時価総額が1,000億円以上 |
出所:日本取引所Gホームページなど
時価総額の要件変更は、先月までゆがみがあった点が修正された結果になっています。
先月まで東証二部からは時価総額要件が40億円以上なのに、JASDAQから一部の市場変更には時価総額が250億円以上必要な、いわば「JASDAQの遺産」が引き継がれていました。
最終的に一部指定を目指すなら、マザーズや二部にIPOしたほうが少なくとも時価総額という観点では一部指定を受けやすかったため、JASDAQ市場にIPOする意義が薄れていましたが、今回の変更でその差がなくなり、わかりやすくなったといえます。
さて、変更前と変更後で違う点をひとことでいえば、より「大企業」にならなければ一部指定を受けられないようになったことです。
ということは、要件を満たす銘柄が少なくなりますので、今月以降一部指定を受ける銘柄数は先月までより少なくなることでしょう。
一方、株主数要件は大幅に緩和されました。
株主数が800人以上という要件は、多くの場合IPO時に満たせるのではないでしょうか。
筆者は、証券アナリストを仕事にしていた時代、この一部指定される銘柄の予想を定期的に行っていたのですが、一部指定を受けるための要件としてクリアするのが最も高いハードルであったのがこの株主数でした。
立会外分売や分割をすると、一部指定を目指しているシグナルだとされるのは、流通株式数を増やすとともに、株主数を増やすためであることが多かったように思います。
分売でマーケット価格より少し低いプライスで売ったり、分割で買いやすくして株主のすそ野を広げていたのだろうと思います。
しかしながら、今後は株主数要件よりも売上高や時価総額のハードルが上がりますので、一部指定を目指すシグナルめいたものが企業側から発信されることが少なくなると予想されます。
つまるところ、今月以降は投資家が一部指定される銘柄を予想するのが難しくなったといえます。
予想するためには東証一部以外の上場銘柄について、一部指定要件についての値を丁寧にウォッチしていくことが必要です。
前述した東証一部指定に伴うTOPIX連動資金の買い需要を期待した価格変動について触れます。
一部指定された銘柄(加えて新規に一部上場した銘柄)がTOPIXに組み入れられるのは、一部指定日(または新規一部上場日)の翌月最終営業日です。
それぞれの銘柄には東証が定める「浮動株比率」(発行済株式数のうち、流動性があるとみなされる銘柄の割合)にもとづいてTOPIXに組み入れられますが、翌月最終営業日に組み入れられるときは、浮動株比率は本来の値の75%とされ(「調整係数適用」といわれる)、その後調整係数は解除されます。
よって、TOPIX連動資金は最低2回に分けてTOPIXへの組み入れを行いますので、最低2回TOPIX連動資金の買い需要が発生します。
しかしながら、多くの場合一番大きく価格が変動するのは、一部指定が発表された直後です。
特に長期間一部以外の市場に所属していた銘柄が一部指定を発表した場合は、その意外性から大きく価格が上昇することが多いです。
先月までであれば、株主数を満たすために一部指定と同時に公募増資を発表するケースもあり、その場合は増資に伴う希薄化で株価の上昇が小さいレベルにとどまることも少なからずありましたが、前述したように今後は株主数のハードルが下がりますので、そのようなケースは減るでしょう。
また、時価総額の基準が引き上げられたことで、TOPIXに組み入れる際のウェイトが、例えば同じ浮動株比率の40億円の銘柄が一部指定された場合よりも高くなり、実需の買いの規模も大きくなりますので、組み入れ時の価格上昇は今までより大きくなると思います。
つまり、丁寧に一部指定される銘柄の予想をすることで得られるリターンは、今までの一部指定より大きくなる可能性がある変更が行われたことになったと考えられます。
なお、東証は2022年に現行の市場再編を行う予定です。
その際はまた市場変更等の要件が変化、あるいは新たに設定される可能性があることも併せて念頭に置いておきましょう。
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